懸魚、奥河内で寺社の破風を飾る【葉隠の美】

40年以上も昔のこと、お城のことを調べていた頃の話であるが、その時“懸魚(げぎょ)”というものを初めて知った。しかしツイ最近まで、どの形のものが何と呼ばれる懸魚なのか全く知らなかった。もう少し早く勉強しておけば、お城を探訪する時、もっと有意義な鑑賞ができたのでは、と思っている。

懸魚千鳥破風や入母屋破風の拝下(おがみした)、左右の屋根がすーと伸びて出合う所に派手な飾りがある。花などを抽象化して、まるで家紋の一部を切り取ったようなデザイン。これが懸魚(げぎょ)である。
優雅で洗練された懸魚が破風の軒下を飾り、建物全体に落ち着きと和らぎを与えている。もし懸魚が無ければ破風の軒下は、本当に殺風景で何か物足りない感じを与えていたと思われる。

懸魚は、木造建築を火災から守るために、水と縁のある魚の形をした飾りを屋根の下にぶら下げて“火除けの御まじない”としたのがその起源と考えられている。これと同じように、火災除けとして屋根の上に飾られるものに城郭の鯱(しゃち)や寺院の鴟尾(しび)があるが、庶民は、建屋の妻の部分などに「水」と書いて火災から建物を守る“火伏の御まじない”をしてきた。

懸魚 懸魚 懸魚

懸魚は破風の棟木(むなぎ)や桁(けた)の先端を隠すために取付けられている飾り板であるが、その意匠は、数え切れないほどある。蕪(かぶら)懸魚は、下部に「人」形の線が刻まれ、さらに野菜の蕪のような形をしている。しかし本来は鏑矢(かぶらや)の先に付けて音を鳴らすモノに似ていることからの命名のようである。

そしてこの蕪懸魚を三つ組み合わせたものが三花(みつばな)懸魚でこの懸魚は大型で非常に豪華である。
反対に最も質素なのが五角形の梅鉢懸魚、さらに猪目(❤形)のくり貫きがある猪目(いのめ)懸魚がある。なお唐破風に付けられる懸魚は“兎の毛通し(うのけとおし)“と呼ばれている。

ところで千鳥破風や入母屋破風に取付けられる懸魚は、その破風の大きさによってある程度決まってくるようで、小型の破風には、猪目懸魚や梅鉢懸魚、中型の破風には、蕪懸魚や猪目懸魚、そして大型の破風には、三花懸魚が一般的に取り付けられている。そのためか河内長野では、三花懸魚は見られず猪目懸魚や蕪懸魚、梅鉢懸魚が主流である。

懸魚観心寺の金堂や金剛寺本堂では、猪目懸魚、延命寺の庫裏では立派な懸魚が飾られているが、これも猪目懸魚と考えられる。そして長野神社の本殿や烏帽子形八幡神社ではいずれも猪目懸魚が取り付けられている。このように河内長野の代表的な寺社では、猪目懸魚が主であるが、小さな建造物には梅鉢懸魚も多く見られる。
 【写真説明】
《上》 観心寺金堂 懸魚群
《中央》(左)観心寺金堂・猪目懸魚、 (中)金剛寺南大門・梅鉢懸魚
    (右)松林寺護摩堂・三花懸魚
《下》 金剛寺食堂・蕪懸魚


横山 豊