釘隠し、奥河内の寺社を飾る【葉隠の美】

西高野街道が河内長野に入り、北坂を登って少し進むと松林寺に至る。
当寺は鎌倉期の僧・叡尊(えいぞん)が創建したと伝える真言律宗の古刹である。当寺の山門に釘隠し(くぎかくし)がしつらえている。
松林寺山門釘隠し1釘隠しは、柱と長押(なげし)が交差する所や扉に打たれた釘の頭を隠すための化粧金具で、古くは半球状の饅頭(まんじゅう)金物や乳(ちち)金物とも言われる唄(ばい)が多く取付られていた。
平安中期頃からは、四葉や六葉の花弁形の座が付けられ、さらに進化して八葉形なども使われるようになった。そしてそれらの表面には、透かし彫り(すかしぼり)や鋤彫り(すきほり)、あるいは筋彫り(すじぼり)など、さらに鍍金(メッキ)なども施され、釘隠しは、より一層華やかになっていったようである。
松林寺山門釘隠し2六枚の葉の形をしているので、“六葉釘隠し(ろくようくぎかくし)“と呼ばれるものが古く、かつ最も一般的であるが、この六葉形には、葉と葉の間に猪目(いのめ)型(♡型)の隙間が出来るのが特徴である。そして近世になると、様々な形の釘隠しが創作され、また楽しまれた。
ところでこの六葉の釘隠し、なにをデザインしたのであろうか。何かの花を模しているのであろうがよく解らない。
釘隠しのデザインには、六葉をはじめ、四葉や八葉形、あるいは桐や五枚笹、花菱、菊菱、桔梗などの植物系や舞鶴、亀などの縁起物、さらに傘や扇などに貼りやすいようにその形に合わせて切り取った地紙(ぢがみ)や玉子座、二枚座、さらに唄(ばい)などがある。
そして材質では、青銅製や鉄製のものもあるが、室内などで見られる釘隠しには、真鍮製や金細工したようなものも多い。そのため時には俗悪さを感じることもある。
しかしながら松林寺の山門では、木製の釘隠しが取り付けられていて何か素朴さを感じほっとする。そして同寺の釘隠しには、“釘を隠す”という実用面と“飾り”という装飾面が見事に調和した美しさが見られる。

金剛寺食堂釘隠し3 金剛寺楼門釘隠し4 金剛寺楼門釘隠し5

天野山金剛寺の食堂(じきどう)の釘隠しは、青銅で作られているが、時代を経て心地よい色合いに変色しており、金属のもつ嫌味は全く感じられない。むしろ柱と調和した美しさが見られる。そしてまた同寺の楼門の釘隠しは、鉄で作られているため、かなり錆が浮いているが、ここでも歴史が感じられ格別な趣がある。

観心寺恩賜講堂釘隠し6 観心寺恩賜講堂釘隠し7

観心寺の恩賜講堂の釘隠しは、細長の真鍮板に唐草と菊水が彫られているこの釘隠しは、大きくて派手であるが、ここでも時間が経っているからか柱や梁に溶け込んでいて金属のもつ俗悪さは少しも感じられない。むしろ室内の調和を保つ装飾品の一つ、脇役に徹した“葉隠の美”がうかがえて嬉しくなる。

西岡本公平(にしおかもと こうへい)