蝋梅の里 奥河内の流谷十六仙谷

南海・天見駅前の天見川と流谷川(ながれだにかわ)の合流地・出合の辻から流谷に入ると、美しい渓谷が続く。
この渓谷は、昔は「そそぐ谷」と呼ばれていたようである。
毎年1月6日、勧請縄掛け神事が行われる流谷八幡神社を過ぎ、流れに沿ってさらに林道流谷線を進むと、視界が大きく開け、左に美しく整備された棚田が広がっている。
さらに数百mほど行くと、林道井関谷線との分岐に至る。
ここは札場(ふだば)と言われ高札場の跡と伝えられている。
ここから20mほど先を右に入ると「流谷金剛童子」と呼ばれる不動の岩が川中に立つ。さらにその先の猪垣を越えた山の中に葛城経塚28宿の第16番がある。
林道をさらに進み、唐久谷への分岐の少し手前50mほどを南に入った所が蝋梅(ろうばい)の里・十六仙(泉)谷(じゅうろくせん・たに)と呼ばれる小さな渓谷である。
そしてこの谷の右奥に不動明王が祀られている。
蝋梅は、桜と同じように葉より先に花が咲く。そのため蝋梅の木全体が黄色い花に覆われ豪華で美しい佇まいを見せる。花は12月頃から咲き始めるが、香りを楽しむには1月末から2月上旬まで待たなければならない。そして3月頃葉が吹き、6月に実を付ける。
蝋梅は、江戸初期(17世紀)に中国から渡来してきた花で、2Cm程の大きさの花が下向きか横向きに咲き、花の少ない時期、寒い季節に鮮やかな黄色い花を咲かせ、優美な芳香を放つ。
中国・宋の詩人は蝋梅を「人を悩ます香り」と詠った。
この花の呼称は、唐の国から来たので「唐梅」に由来すると言われる。あるいは花弁が蝋細工のような、梅に似た花を咲かせることから、あるいはまた陰暦の12月、いわゆる臘月(ろうげつ)に梅に似た花を咲かせるからとも言われている。
日本では、素心(そしん)蝋梅と呼ばれ花の内外ともに黄色いものが多い。これは素心が甘い香りを放つからであるが、外は黄色、内は少し赤紫で香りが少ない品種もある。
当地の蝋梅とナナカマドは、元々土手の土止めとして植えられたそうである。
そしてその50本ほどのナナカマドは、北海道から種を取り寄せて植えられていたが、当地は暖かいので虫が付き上手く育たなかったそうである。
流谷の蝋梅は、1月下旬から2月上旬、満開になり、周囲に甘い香りを漂わせる。正に「人を悩ませる香り」に満ちている。
流谷は自然の美しい渓谷であるが、特にこの流谷の十六仙谷は、蝋梅の花を心行くまで楽しめる所である。ここは正に”蝋梅の里”である。

西風狂散人(かわちのふうきょうさんじん)