シデコブシ、奥河内の観心寺に春を呼ぶ !!

観心寺中院シデコブシ河内長野市に真言宗の名刹・観心寺がある。その塔頭(たっちゅう)の一つは、中院(ちゅういん)と呼ばれるが、この建物は、楠木正成(まさしげ)の曽祖父・成氏(しげうじ)が再建したと伝え、当院は、楠木氏代々の菩提寺だったと言われている。
正成は、8歳より15歳まで、当院で院生の滝覚坊(りゅうかくぼう)に四書五経などを、また当地から一里ばかり離れた加賀田(かがた)の住人・大江時親(ときちか)に兵法と武芸を学んだと伝えられている。
この中院にシデコブシ(四手辛夷)が咲く。
辛夷は早春に、しかも葉が出る前に白い花を木いっぱいに咲かせるが、それはまるで白い小鳥たちが乱舞し、木々に群がっているように見える。
辛夷の名前は、花の咲き始めの膨らんだ蕾の形が幼児の握り拳(こぶし)に似ていることから、あるいは秋に握りこぶしに似たデコボコのコブが繋がった細長い果実が実ることに由来する。
コブシは、山阿良々木(ヤマ アララギ)とか、古布志波志加美(コブシ ハジカミ)とか呼ばれていたが、このアララギとは、野生のネギ・野蒜(ノビル)のことを、またハジカミは、ショウガの別名でサンショウの古名である。いずれも「辛い」と言う意味からの命名のようである。そのため、辛夷と言う字には、「辛い」が含まれている。
観心寺中院シデコブシところでコブシは、日本列島と韓国の済州島にしか自生していない。そのため、コブシの学名は、Magnoli(マグノリア)Kobus(コブシ)と、また英名は、Kobusi Magnoliaと言うそうである。

コブシは「春の神が宿る花」とも言われ、春の訪れを告げる花、春を呼ぶ花であった。
そのため、昔はコブシが咲くと田植えの準備を始めたそうで、「田打桜(たうちざくら)」とか、「種蒔き桜」や「苗代桜」あるいは「田植え桜」と、そしてまた「芋植え花」などとも、さらに「時を知らせる桜」など、多くの別名がある。またこの花は、一般的には「コブシの花」と言われるが、それを「花辛夷(ハナコブシ)」と逆に表現することもある。
興味深いことは「コブシが多く咲く年は豊作」といった開花状況から、気候の良し悪しや作柄の豊凶を占ったり、この花が上向きに咲くと晴れ、下向きだと雨になるといった俗信もある。
観心寺中院シデコブシこの辛夷にシデコブシ(四手辛夷)といい、花弁が細く、しかもたくさん花を付ける品種がある。普通、コブシの花弁は6弁だが、このシデコブシは、花は小さいが12~16弁の花被片(かひへん)を付け、しかも微かな芳香がある。
細長い花弁が10数枚垂れ下がる花の姿が、神前に供える玉串(たまぐし)や注連縄(しめなわ)に付けてたらす「紙(幣)」「垂(シデ)」「四手(シデ)」に似ていることから「四手辛夷(シデ・コブシ)」とか「幣辛夷(シデ・コブシ)」とか、あるいは「紙垂辛夷」とか呼ばれている。
3月末から4月初め、河内長野市内でもコブシの花が見られるが、このシデコブシが咲いている所は、当院しかない。なお、当院のシデコブシ、4月2日頃、美しい花を咲かせ奥河内に春を呼んでいる。                     

西風狂散人(かわちのふうきょうさんじん)