奥河内 西條酒造の酒林(さかばやし) 

酒林とは
(1)造り酒屋の軒先に杉の葉を束ね球形状に丸く、
刈り込んだもので、杜氏や蔵人が毎年、新しいものを作り、掛け替えてきた。
(2)酒の神・奈良の大神神社で行われる酒祭りの神事「酒栄講(しゅえいこう)」では、杜氏が集まって酒造りの安全を祈り、御神体の三輪山の御神木の杉の木で、酒林が作られ拝殿に祭られた。
そして参拝した酒屋にもこの酒林が授けられ、各地の蔵元もそれをお守りの護符として吊るすようになった。 これが、酒林の始まりと伝えられている。
(3)中国では酒屋を「酒屋望子(ぼうし)」と言うが、この「ぼうし」が訛って「ばやし」となり、それが「さかばやし」になったと言う説(新井白石の説)がある。
また一説には、酒の異称「掃愁箒(そうしゅうそう)」の酒箒(さけぼうき)が「酒林」に転訛したと言うのもある。それにしても、
(4)酒の別称「掃愁箒(うれえをはらうほうき・そうしゅうそう)」とは、言い得て妙。
香りの良い杉の葉で作られた酒箒が、愁いを払い良い気分にさせてくれる。
さらにまた、杉の木には、酒の腐敗を防ぐ殺菌効果があり、樽や枡にも使われてきた。芳醇な酒を杉の木がさらに引き立てる。 ここに日本酒の醍醐味がある。

2:醸成のしるし
「今年の新酒の搾り始め」を知らせるために、 最初は青々とした酒林が軒に吊るされるが、 しばらくすると、新酒も熟成され、芳醇な味 わいが醸し出される頃には、杉の葉も茶色く 色づいていく。
酒林の変色は、人々に新酒の 熟成度を示しているのである。

3:形状
(1)箒状(掃愁箒)に杉の枝葉を束ねたもの、
(2)俵状や鼓状のもの、
(3)球形のもの、さらにそれに、
① 屋根を付けたもの(西篠酒造)や、
② 注連縄を巻いたもの、などがある。

4:日本の酒文化の崩壊
(1)近年では、酒林が酒造りの安全祈願や新酒の醸成度を示すという本来の目的から離れ、単に酒蔵のシンボルに、あるいは、酒蔵周辺の一般家庭の軒飾りとして何の目的もなく吊るされているが、これでは、日本の酒文化の崩壊にも繋がりかねない。さらに、
(2)「酒林」を「杉玉」と表現することも見受けられるが、そのような呼称のものは存在しない。

5:海外では
新酒を知らせる風習は、古くは西欧諸国にも広く分布していたようであるが、現在では、ドイツの一部とオーストリアのみに存在している。
新酒を飲ませるオーストリアの居酒屋「ホイリゲ」では、松の枝を束ばねて店先に吊るしている。
日本と西欧、材質(杉と松)と形状(球形と箒状)には差があるが、よく似た酒の文化を持っている。

6:酒林は、どこに
※ 西篠酒造(河内長野市)

7:川柳
* 村酒屋 軒に天狗の 巣をつるし
(酒林は、酒屋の看板であるが、天狗はその杉の木に棲むと言われた)
* 杉つ葉の 玉ぶら下げる 村酒屋
(村酒屋にも酒林がぶら下がっている)

(横山 豊)